あなたの選んだタネがあなた自身をつくります

「あなたの選んだタネがあなた自身をつくります」
この言葉には、私たちが日々食べるものと、その背後にあるタネの重要性が深く関わっていることが示されています。タネは作物の命の源であり、その質や種類が私たちの健康や環境、さらには将来の食料供給に大きな影響を与えます。しかし、現在の日本において、タネの自給率は非常に低く、その影響が見過ごされがちです。


日本のタネの現状
日本のタネ自給率は年々低下しており、特に野菜や果物のタネにおいては、多くが海外から輸入されています。農業技術が進む中で、F1種(一代交配種)と呼ばれる、特定の形質が揃いやすいタネが普及しています。F1種は、作物の均一性や広域流通の利便性が評価され、商業農業では広く使われています。しかし、F1種は一度栽培するとその種子から再び同じ品質の作物が育たないため、農家は毎年新しい種子を購入し続けなければならないという問題があります。結果として、日本国内でタネを自給する力が弱まり、タネの多くが海外の大手種子会社に依存する構図が生まれています。
この状況は、食の安全性や持続可能な農業においても大きなリスクをはらんでいます。輸入されたタネが海外の基準で育成されている場合、日本の気候や風土に合わないことがあり、結果的に農薬や肥料の使用量が増加することがあります。さらに、輸入タネの遺伝子組み換え技術や化学処理の有無など、消費者にとっては見えにくい部分での影響も懸念されます。
自家採種と地域に根ざしたタネの価値
このような背景から、自家採種や在来種の栽培が再び注目されています。自家採種は、農家自身が作物から種を採取し、次の栽培に活かす方法で、自然農法や持続可能な農業の実践において重要な要素です。地域の気候風土に適応した在来種や固定種は、F1種のように外部に依存することなく、その土地に合った作物を育てることができ、肥料や農薬の使用を最小限に抑えることが可能です。また、在来種は品種ごとに豊かな風味や食感があり、地域の食文化の一端を担ってきました。
例えば、日本各地で栽培されてきた在来野菜は、独特の風味や栄養価を持っており、その土地で長年にわたり食べ継がれてきました。しかし、近年はF1種の普及により、これらの在来種は姿を消しつつあり、地域独自の食文化も失われつつあります。自家採種を続けることで、こうした伝統的な食文化を守りながら、食料自給率を向上させることができるのです。
タネと食の安全性
タネの選び方は、私たちの健康にも直結しています。市販の野菜や果物の多くは、大量生産と流通に適した品種改良を受けていますが、その過程で本来の風味や栄養価が犠牲にされることがあります。F1種や遺伝子組み換え作物など、現代の食料生産システムでは、収穫量や見た目が重視される一方で、私たちが食べるものの質や安全性が見落とされがちです。
一方で、自家採種された在来種や固定種は、その土地の気候風土に根ざし、農薬や肥料をほとんど使わずに育つため、より自然な形で私たちの食卓に届きます。これにより、栄養価が高く、安全で安心できる食材が得られるのです。また、種子法の改正など、近年では種子の管理や流通に対する規制緩和が進み、私たち消費者が種の選択に対して自覚を持つことがますます重要になっています。
タネを選ぶことは未来を選ぶこと
「あなたの選んだタネがあなた自身をつくります」というテーマは、単に私たちが食べるものだけでなく、環境や社会、さらには次世代に対する責任を考えるきっかけでもあります。自家採種や在来種の保存を推進することは、食料自給率を向上させ、食の安全性を高めるだけでなく、持続可能な農業を実現するための重要な一歩です。
私たちがどのようなタネを選び、どのような食材を口にするかは、単なる個人の選択ではなく、社会全体の未来に影響を与える決断です。地域に根ざした在来種や固定種の栽培、自家採種の重要性を理解し、それを積極的に支援していくことが、私たちの食卓をより豊かにし、地球環境を守るための道となるのです。

