自家採種の意義



肥料や農薬の使用は、土壌だけではなく種にも大きな影響を及ぼします。秀明自然農法を実践する場合、種を繰り返し自家採種して、肥毒を減らすことを目指します。土に肥料や農薬を使わずに栽培を続けたとしても、市販の種を使用していては、肥毒の影響を避けることはできません。清浄な土に肥毒の抜けた清浄な種をまくことが秀明自然農法を成功させることにつながります。
自家採種は可能な限り同じ圃場で繰り返し行います。地域の気候風土を経験した種は、その地域の環境に順応し、品種ごとの特性などが形作られていきます。肥毒の抜けた種を同じ土地にまくことで、作物は生長する力を発揮するようになり、土地の気候風土に順応した優良品種に育ちます。収穫で終わらせず種を採るところまでお世話をすることは、作物の一生を見守ることでもあり、命の尊厳と触れ合う作業でもあります。
現在、食卓にあがる野菜のほとんどは作物ごとに形成された産地から届きます。作物の旬よりも一年を通して安定供給されることが重視され、広域流通に便利で形質が揃いやすいF1種(一代交配種)が広く栽培されています。品種改良によって生まれたF1種は、種を採ってまいても形質がバラバラの作物が育つので、種を毎年購入する必要があります。F1種が広がり、全国で同じような品種が栽培されるようになった結果、野菜が持つ本来の味わいは失われ、調味料で野菜に味付けをすることが一般的になりました。
地域の気候風土に合わせて栽培されてきた在来野菜は、味にも形にも個性があり、地域の食文化を継承する役割を果たしてきました。それぞれの地域で自家採種が続けられてきた在来野菜は肥料を必要とせず、病虫害にも強い性質を持っているので、秀明自然農法の栽培に適していることが分かってきました。ところが、F1種の栽培が主流になり、在来種・固定種の需要が無くなりつつある現在、存続の危機を迎えています。在来種の栽培・採種に関する知識や技術を持っている人も少なくなりました。古来から栽培されてきた在来種の価値を見直し、種を残すことが求められています。
秀明自然農法しがらきの里では、2021年に種のデモンストレーション圃場を設けて、在来野菜と在来稲の栽培と採種の紹介を始めました。各地域で古くから栽培されてきた在来野菜、在来稲が持つ魅力を、多くの方々に知ってもらうことを目指し、2022年には「田植え体験イベント~古代稲のロマン弥生から現代までの300品種の稲たち~」を開催しました。2023年は、200品種の在来野菜と230品種の在来稲を栽培して自家採種を行っています。
人と人との出会いや不思議な縁により、近年しがらきの里には貴重な在来種の種が集まってきています。種をまいて栽培し、また種を採る自家採種を続け、命をつなぐ営みを将来世代に引き継いでいきます。

